回想法は、認知症のケアとして介護現場で注目されている手法のひとつです。ケアを必要とする人が、若いときに使用していたものや写真を見ながら思い出を語り、聞き手がその話に耳を傾ける手法をいいます。当初は、高齢者を対象としたうつ病の治療に効果があるとされていましたが、認知症の治療や予防としても取り入れられるようになりました。
具体的な効果として代表的なのは、心を落ち着かせる効果です。聞き手が熱心に耳を傾けることで、「話をしっかり聞いてもらえる」という安心感が生まれ、それが自己の肯定へとつながっていきます。また、若い頃の経験を思い出すことで、当時の記憶とともに高齢者の心に楽しい気持ちや懐かしい気持ちがよみがえります。その結果、自然に心が穏やかになり、表情も明るくなるという効果が認められているのです。
また、自分自身の過去を思い出すことにより、自分に対する自信を取り戻すきっかけになる点も見逃せません。認知症の人は、いろいろな失敗をしてしまった際に「情けない」と感じる場合が多々あります。漠然とした不安を抱えている本人にとって、再び自信を取り戻すことは活力につながります。不安がおさまったことで周囲に対する暴言が減り、人間関係が改善されたケースも報告されています。
さらに、誰かに話をするという行為はそれ自体が脳への刺激となり、脳の血流が上がる効果もあります。脳の血流低下はさまざまな認知機能障害を招くことが認められているため、血流の上昇は認知機能低下の予防につながるといえます。